2000年女性国際戦犯法廷と報道圧力

1998年4月、ソウルで開かれた

第5回アジア女性連帯会議で、

日本のVAWW-NET JAPAN

(戦争と女性への暴力日本ネットワ-ク)から

「女性国際戦犯法廷」を開く提案がありました。

ベトナム戦争中にアメリカで開かれた

ラッセル法廷を参考にした提案です。

注:ラッセル法廷  

  ベトナム戦争中の1967年に

  開かれたアメリカの戦争犯罪を

  裁いた民衆法廷です。

  提案者はバ-ドランド・ラッセルと

  ジャン=ポ-ル・サルトルです。   

  民衆法廷なので法的な拘束力はありません。

 

翌1999年2月にソウルで

国際実行委員会が結成されました。

メンバ-は

加害国日本、被害国6ケ国(韓国、北朝鮮、中国、台湾、

フィリピン、インドネシア)、国際諮問委員会の3者です。

それに法律顧問として

オランダのテオ・ファン・ボ-ベン教授と

アメリカのロンダ・カプロン教授を迎えました。

そして2000年12月8日から12日にかけて、

東京九段会館と日本青年館で

「女性国際戦犯法廷」が開かれました。

参加者は公聴会も含めて

延総数で6,000人にもなりました。

外国からは9ケ国からの被害者64名を含め

390人が参加しています。

 

● 法廷の主要メンバ-

 裁判官

  主席判事 

   ガブリエル・カ-ク・マクドナルド 

    旧ユ-ゴ国際刑事法廷前所長

    アフリカ系アメリカ人

  判事   

   クリスチ-ヌ・チンキン      

    ロンドン大学国際法教授

   カルメン・マリア・アルヒバイ   

    世界女性法律家連盟会長  

    アルゼンチン判事

   ウィリ-・ムトウンガ   

    ケニア人権委員会委員長  

    ケニア大学教授

  主席検事 

   パトリシア・セラ-ズ         

    旧ユ-ゴ、ルワンダ国際刑事法廷法律顧問       

    アフリカ系アメリカ人

    ウスティニア・ドルゴポル       

    オーストラリア・フリンダ-ス大学国際法助教授     

    元国際法律家会 スタッフ

  各国検事団 10ケ国  

   日本6人、北朝鮮2人、韓国8人、中国4人、

   台湾6人、フィリピン7人、インドネシア4人、

   マレ-シア1人、東チモ-ル2人、オランダ2人

 

裁判の経過は・・・・

● 2人の主席検事による共通起訴状の朗読

 要旨: 

  日本軍性奴隷制は人道への罪であるとして、

  昭和天皇をはじめ、東条英機、松井石根

  山下奉文など10人の日本軍、政府の

  最高責任者たちの刑事責任を追及、起訴し

  また国家責任も追及した

● 各国検事団を紹介

 北朝鮮、韓国は別々の検事団でしたが、

 戦争当時は1つの国だったため、

 南北は合同起訴状を読み上げました。

● 被害者の証言

● 元日本軍兵士の加害者証言

● 専門家証言 

 山田明            

  明治大学助教授

 フリッツ・カルスホ-ベン   

  オランダ・ライデン大学教授

 レパムラジェノビッチ      

  セルビア・ベオグラ-ドの

  暴力反対女性自立センタ-代表

● 主席検事の論告 ドルゴポル検事

 要旨:

  ドルゴポル検事

   慰安所で行なわれたことは

   強姦であり、性奴隷制は人道への罪である。

   被害者たちの回復には正義が必要であり、

   本法廷が正義を実現することを期待します。

  セラ-ズ検事

   生存者の証言を聞いて、

   同時に亡くなった被害者のつぶやきも聞いた。

   被害者たちの年齢に自分を置き換えて、

   今晩強姦される可能性を追体験しよう。

   司令官たちに責任がないはずがない。

   中でも全ての権限を持ち、

   全ての事柄について知り得え、調査し、抑制し、

   指示できた天皇裕仁に責任がないはずがない。

● 起訴された被告人

 天皇裕仁、東条英機、板垣征四郎、梅津美治郎

 安藤利吉、松井石根、畑俊六、小林躋造

 寺内寿一、山下奉文、岡村寧次(支那派遣軍総司令官)、

 松山祐三(第56師団長・ビルマ)、南次郎(朝鮮総督)、

 朝香宮鳩彦(上海派遣軍司令官)、谷寿夫(第6師団長・南京)、

 中島今朝吾(第16師団長・南京)、長谷川清(台湾総督)、

 黒田重徳(第14軍司令官)、本間雅晴(第14軍司令官)、

 川内伝七(南西方面艦隊司令長官)、高橋伊望(南西方面艦隊司令長官)、

 肥原賢二(第7方面軍司令官)、原田熊吉(第16軍司令官)、

 有田八郎(外務大臣)、近藤信竹(第5艦隊司令長官)、

 森岡二郎(台湾総督府総務長官)、加藤恭平(台湾拓殖(株)社長)、

 牛島満(第32軍司令官・沖縄)、長勇(第32軍参謀)、

 本郷義夫(第62師団長・沖縄)

   注:黄色線部分の10名が共通起訴状で

     起訴され最終的に有罪になりました。

● 判決

 統一起訴状で起訴された10人のうち、

 最終的に人道に対する罪で

 昭和天皇裕仁にも「有罪」の判決が下されました

 さらに、日本国家は慰安所の設置と運営に関して

 責任を取るべき、とされました。

● 最終判決

 2001年12月4日、

 オランダのハ-グで最終判決が下されました。

 ☆内容

  元慰安婦に対して犯された犯罪について、

  上官としての責任および

  個人として責任で9名に有罪  

   天皇裕仁、東条英機、板垣征四郎、梅津美治郎、

   安藤利吉、松井石根、畑俊六、小林躋造、寺内寿一、

  マパニケ村集団強姦事件において有罪      

   山下奉文

 そして、日本政府、国連、旧連合国に対して勧告が出されました。

● 日本政府に対する勧告(要旨)

 1. 慰安婦制度の設立に責任と義務があり、

  そして国際法に違反することを認めること

 2. 法的責任を取り、2度と繰り返さないと保証し、

  完全で誠実な謝罪を行う事

 3. 犠牲者、生存者、回復を受ける

  権利がある者に対し、政府として

  被害を救済し将来の再発を防ぐのに   

  適切な金額の損害賠償をおこなうこと

 4. 軍性奴隷制について徹底した調査を

  実施する機構を設立し、

  資料を公開し、歴史に残すこと

 5. 生存者たちと協議の上で、

  戦争中、過渡期、占領期及び植民地時代に

  犯されたジェンダ-に関わる犯罪の

  歴史的記録を作成する

  「真実和解委員会」の設立を検討すること

 6. 記憶にとどめ、「2度と繰り返さない」ために、

  記念館、博物館、図書館を設立することで、   

  犠牲者と生存者を認知し、名誉を称えること

 7. あらゆるレベルの教科書に

  意味のある記述を行い、

  研究者および執筆者に助成するなど   

  公式、非公式の教育施作を行なうこと・・・・

 8. 性の平等と地域の全ての人々の平等の尊重を

  実現するための教育を支援すること

 9. 帰国を望む生存者を帰国させること

 10.政府が所有する慰安所に関するあらゆる

  文書とその他の資料を公開すること

 11.慰安所の設置とその為の徴集に関与した

  主要な実行者をつきとめ処罰すること

 12.家族や近親者から要望があれば、

  亡くなった犠牲者の遺骨を捜して返還すること

● 国連および加盟国に対する勧告

 1. 日本政府が完全な賠償を行うことを

  確保するために必要なすべての措置をとること

 2. 元慰安婦に関する日本政府の

  違法性および継続する責任について、  

  国際司法裁判所の勧告的意見を求めること

● 旧連合軍に対する勧告

 1. 慰安婦制度の設立と運営、

  及び東京裁判でこの制度が訴追されなかった

  理由に関するあらゆる軍及び政府の記録を

  直ちに機密解除すること

 2. 東京裁判で天皇裕仁が訴追されなかったことに関する   

  あらゆる軍及び政府の記録を直ちに機密解除すること

 3. 戦後の裁判で、さらにその後56年間にわたって、

  元慰安婦たちに対して犯された犯罪を

  調査し訴追することを怠ったことを  認め、

  調査し、資料を公開し、適切に、

  生存じている実行行為者を訴追する措置をとること

 

このようにして慰安婦問題としては

世界で始めて民間法廷が開かれたのです。

民間ですから国への拘束力はありませんが、

世界に向けて発信できた事は

次のように大きな意義があると思います。

 ◎長い間の沈黙を破った被害者たちの

  名誉と人権回復に答えた事。  

  そしてその事が潜在の被害者たちをも勇気付けたこと。

 ◎性差別からの正義をはっきり打ち出した事。

 ◎東京裁判でも出せなかった天皇有罪の判決が出たこと。

また問題点も明るみに出ました。

日本で開かれた日本の問題なのに、

日本人及び日本のマスコミの反応が鈍かった事です。

 ◎日本のメディアの参加  48社  105名

 ◎外国のメディアの参加  95社  200名

 

メディアでは国営のNHKの報道姿勢が問題になりました。

NHKはもともとこの問題に関しては

腰が引けているところがありましたが、

今回は特集番組放映で政治的圧力に負けたようです。

 

[NHKへの政治的圧力]

2001年1月NHK教育テレビでは、

4夜連続の特集ETV2001

「シリ-ズ戦争をどう裁くか」を放映しました。

1月30日午後10時の第2回目、

「日本軍の戦時性暴力」のタイトルで

この女性国際戦犯法廷の事が取り上げられました。

番組を作ったのは

NHK関連会社のエンタ-プライズ21と

ドキュメンタリ-ジャパンです。

NHKは以前より番組を作ったときには、

放映前に自民党に検閲を受けていました。

放送は本来44分の番組の長さでしたが、

放送当日は4分カットされ40分番組して放映されました。

内容の流れの不自然さと、

無理にカットをした形跡から

どこからかの圧力があったのではないかと

疑問視されていました。

そして2004年、

NHKの長井暁プロデュ-サの

勇気ある内部告発で政治的圧力(?)によって

事前チェッを受け、その結果

内容の変更や部分削除が為されたことが判明しました。

 

「朝日新聞の記事」

2005年1月12日には、

朝日新聞に本田雅和記者の

取材内容が取り上げられました。

その記事の内容をいくつか紹介します。

● 放送前日の午後、松尾武放送総局長と

 国会対策担当の野島直樹担当局長らが

 中川昭一氏、安倍晋三氏に呼ばれ、

 議員会館などでそれぞれ面会した。 

 両議員は「一方的な放送はするな」

 「公平で客観的な番組にするように」と求め、 

 中川氏はやりとりの中で

 「それができないならやめてしまえ」などと

 放送中止を求める発言もした。

● この直後の同日夕方、

 伊東律子番組編成局長と

 松尾、野島両氏が参加して、 

 「異例の局長試写」が行われた。

 試写後に総局長らが

 ①法廷に批判的な専門家の

  インタビュ-部分を増やす、

 ②「日本兵による強姦や慰安婦制度は

  (人道に対する罪にあたり、天皇に責任がある) 

  とした法廷の結論などを

  大幅カットするよう求めた。 

  さらに、放送当日の30日には

  中国人元慰安婦の証言削除などを指示。 

  番組は通常より4分も短くして放送された。

● (松尾氏)

 先生(安倍氏)はなかなか頭がいい。 

 抽象的な言い方で人を攻めてきて、

 いやな奴だなあと思った要素があった。 

 ストレ-トに言わない要素が一方であった。 

 「勘ぐれ、お前みたいな言い方をした部分もある。

   注:忖度しろ!という意味です

いわゆる政治家から証拠が残らない

発言に対しNHKが忖度して

カットしたことなのでしょう。

その年9の「月刊現代」に上記本田記者の

取材メモとジャ-ナリスト魚住昭氏の

解説記事が載りました。

その中からもいくつかの要点です。

 

「月刊現代」の記事

● 匿名のNHK幹部

 教養番組で事前に呼び出されたのは初めて。

 圧力と感じた。

● 中川昭一氏

 NHK側があれこれ直すと説明し、

 それでもやるというから「ダメだ」と言った

● 安倍晋三氏

 偏った報道と知り、NHKから話を聞いた

● 松尾武氏

 もう少し歴史が動かないとダメだ。

注:今はまだ言えない!という意味です。

● 本田雅和

 29日夕方になって伊東律子さんに

 現場の人が呼ばれた。

 伊東局長が「今は、予算時期なので

 自民党とは戦えない

 天皇有罪とかは一切なしにして!

 番組が短くなったらミニ番組で埋めるから

 編成に手配してちょうだい」

 (試写終了後)

 秦教授のコメントを大幅に増やす。

 天皇が有罪になった部分の削除を初め

 3点の修正指示が出された。、

● 松尾武氏

 国会のいろんな圧力はある。

 ないわけがない

 電波に政府がどれだけ介入してきたか

 利権の巣窟だから。

 北海道のおじさん(中川昭一氏)は凄かったですから。

 そういう言い方もするし、

 口の利き方も知らない。

 どこのヤクザがいるのかと思ったほどだ。

● 中川昭一氏

 とにかく番組が偏向してると言ったんだ。

 それでも「放送する」というからおかしいじゃないか、

 ダメだと言ったんだ。

 だって「天皇死刑(有罪の間違い)」って言ってるんだぜ

 

さらに右翼による嫌がらせも行なわれました。

下記の抗議のいずれもが、放映日の前ですから、

情報漏れ→右翼の行動開始→自民党の検閲

になったのでしょう。

嫌がらせは・・・・

● 1月20日 

 「女性国際戦犯法廷に抗議する国民会議」と

 名乗る団体から抗議書簡がFAXでNHKに送られた。

● 1月27日 

 維新政党新風、大日本愛国党などのメンバ-が

 NHKに抗議に来た。

  午前10時頃「NHKの反日・偏向を是正する

 国民会議(維新政党新風が呼びかけ人)」の約30人が、   

 NHK、4階正面玄関に押し寄せた。 

 「日本軍の戦時性暴力は、昭和天皇を

 戦争犯罪人と決め付けるおぞましい番組である。   

 戦争犯罪をデッチ上げる反日洗脳だ」と主張。 

 「放送を中止せよ」と詰め寄り。7時間も抗議した。

 その後、大日本愛国党の街宣車6~7台が

 西口ゲ-トを突破して玄関まで乗りつけ、

 約1時間抗議した。

● その他担当者の自宅まで脅迫や抗議が殺到し、

 53件にも達した。

 

そして放送前日の29日安倍、中川両氏の

圧力を受け、放映直前になって番組の内容は

大幅に変更されたのです。

どの様に変更されたのでしょうか?

 ● タイトルを変更した。 

  「日本軍の戦時性暴力」から

  「問われる戦時性暴力」

   注:日本軍という言葉を外したのです。

 ● 内容を大幅にカットした。

  前日放送分の要約、翌日分の予告の時間をかなり増やした。

  それでも足りなくて44分の番組を40分に短縮した。

 ● 責任者処罰、特に昭和天皇に関する部分がカットされた。

 ● 加害兵士の証言もカットされた。

 ● 2日前に急遽取材したコメントを3分以上挿入した。

 

番組のスタジオ出演者だった

カルフォルニア大学準教授の米山リサ氏は

抗議の申し立てをしました。

 ●抗議の内容  

  BRC(放送と人権等権利に関する委員会)に申し立てた内容

   発言意図、意味が不明になるほどの

   編集が加えられた。

   これは発言の著作者としての

   人格権を侵害するのみならず、

   研究者としての名誉を損なうもの。

 

安倍氏を始め政治家がこの放送を

批判する事は少し的外れです。

この法廷は現在の日本を裁いたのではありません

侵略戦争をした旧日本軍国主義を裁いたものです。

この番組を批判する事は旧日本軍の行為を

肯定する事になります。

そのことは東京裁判やサンフランシスコ条約を

否定する事になります。

裁判や条約を受け入れた

天皇をも否定する事につながるのです。

 

現在でも自民党はテレビ、

新聞等の全マスコミを検閲し、

気に入らない部分については抗議しています。

政治による圧力を恐れるマスコミは

自民党の意向に即した報道しか出来なくなっています。

特に最近政府に忖度した態度が顕著になっています。

  (2017年4月時点)

 ◎アメリカとの接し方

 ◎森友学園の問題

 ◎沖縄の米軍基地の問題

 ◎共謀罪

 ◎憲法改悪

 ◎原発の再稼動

その他多くの問題に全マスコミ、

特にNHKが委縮して政府の顔色ばかり窺っています。