核化学の専門家故高木仁三郎博士は1995年に既に今回の福島事故を想定して論文を発表しています。
今回の事故は想定外な事故ではなく良心的な専門家の警告を無視し続けた事にも大きな原因があります。
論文は専門の物理学会誌に発表されました。
◎「核施設と非常事態-地震対策の検証を中心に」 日本物理学会誌 Vol.50、No.10,1995
・・・・彼ら(原発を推進した人たち)にとっては、「原発は壊れない」建て前になっているため、
今のような機会(阪神大震災)を生かして、原発が被災した場合の緊急時体制や老朽化原発対策などを
真剣に考えるという姿勢もまったくみられない。・・・・
●活断層について
・・・・しかし活断層の有無についても、柏崎・刈羽、敦賀、六ヶ所などではとかく議論があるところで、
たとえば、敦賀原発の敷地内を通る浦底断層は「新編日本の活断層」においても確実度Ⅰの活断層とされている。
また、阪神大震災の後から活断層が多く発見されたことからみても、
活断層がどれだけの確実さで発見されうるかについても大いに疑問が残るところで、「活断層がない所」が選ばれているというより、
「活断層がまだ知られていない所」という方が正しい。・・・・
●老朽化と地震
・・・・一番大きな問題は、老朽化した原発が増えてきているということだ。
次の図に届出のあった原発の事故・故障の原子炉当たりの発生率を、原発の運転歴に対してプロットしたものを示す。
注:運転して23年目くらいから急に事故が増えてきています。使っても20年まででしょう。
図は一つの目安に過ぎないが、
運転歴の長い原発では事故・故障の発生率が増えるという傾向がはっきりとわかる。・・・・
さて、原発にこのような老朽化が進行している状態で地震に遭うとどうなるか、・・・・
設計・施工にまったく問題がなくとも、実炉の耐震性は大いに疑わしい。
仮に破断寸前まで配管や機器の溶接部分の亀裂が発見されない状態にあったときに
地震が起これば一気に破断する可能性も大きいだろう。・・・・
老朽化原発が大きな地震に襲われると、 いわゆる共通要因故障(一つの要因で多くの機器が共倒れする事故)に発展し、
冷却材喪失事故などに発展していく可能性は十分ある。・・・・
●原発の非常時対策は?
・・・・仮に、原子炉容器や一次冷却材の主配管を直撃するような故障がなくても、
給水配管の破断と緊急炉心冷却系の破壊、非常用ディ-ゼル発電機の起動失敗といった故障が重なれば、
メルトダウンから大量の放射能放出に至るだろう。
もっと穏やかな、小さな破断口からの冷却材喪失という事態でも、
地震によって長期間外部との連絡や外部からの電力や水の供給が断たれた場合には、大事故に発展しよう。・・・・
さらに、原発サイトには使用済み燃料も貯蔵され、
また他の核施設も含め日本では少数地域への集中立地が目立つ(福島県浜通り、福井県若狭、新潟県柏崎、青森県六ヶ所など)が、
このような集中立地点を大きな地震が直撃した場合など、どう対処したらよいのか、想像を絶するところがある。
●他の緊急事態は?
・・・・たとえば、原発や核燃料施設が通常兵器などで攻撃された時、
各施設に飛行機が墜落したとき、地震とともに津波に襲われた時、
地域をおおうような大火に襲われたなど、さまざまなことがあげられる。・・・・
これまでにもそれらの問題の指摘はあったが、
そのような事態を想定して原発の安全や防災対策を論じることは「想定不適当」とか「ためにする論議」として避けられてきた。
しかし、最近、阪神大震災だけではなく、世界のさまざまな状況をみるにつけ、
考えうるあらゆる想定をして対策を考えていくことが、むしろ冷静で現実的な態度と思われる・・・・