水戸巌は1933年生まれの物理学者で反原発を掲げる物理学者として行動的に活躍した。
チェルノブイリの大事故(1986年4月)の後1986年12月に北アルプスで遭難死亡
53歳の若さでした。
次の論文は36年前に書かれたものすが、福島事故で初めて国民に知らされた危険性を36年前に書いています。
[テ-マ 原子力発電所]
この巨大なる潜在的危険性
1975年10月 雑誌「情況」に掲載の論文から
「原発の危険性を理解するのに必要なものは知識ではない」
必要なのは論理である。・・・・
原子炉の中にはヒロシマ原爆1000発分の死の灰が内蔵されている。・・・・
原子炉には、この死の灰を外に出さないための3重4重の防護壁があり安全装置がある、
それをいくら並べたところで、ヒロシマ原爆1000発分の潜在的危険性が消えてなくなるわけではない。
とり返しのつかない巨大な潜在的危険性に対しては明確な論理を持たなくてはならない。
それは判断の基準を最悪の事故がおきたときの結果におくということなのである。
交通事故と一緒にしてはいけない。
「死の灰の危険性の特質」
1.日本各地で建設されている軽水炉の中では、運転中たえずウラン原子核が分裂して、熱と分裂片原子核を作り出している。
分裂片原子核はほとんどが放射能をもっており生物に致命的な危害を加える。
これはヒロシマ、ナガサキ、ビキニの原爆によって作られ人々の上に降り注いだ「死の灰」とまったく同一物である。
2.放射線は、生物の細胞の大部分を占める水の分子から電子をもぎとる。
残された遊離基は細胞中の他の分子と結合することによって細胞の機能を損傷する。
大量の放射線を受けた細胞は死滅し、生物は「急性症状」を示して死に到る。
しかし原発公害で問題になるのは、むしろ「微量」の放射線を受けたときの問題である。
3.微量放射線による障害は、ガン(白血病を含む)の発生と遺伝障害に二大別される。
放射線は、血液ガン、胃ガン、肝臓ガンなどすべてのガンを発生させることが知られており、
その潜伏期は20年ないし50年の長期にわたる。・・・・
放射線による損傷が、生殖細胞におこるときは、染色体突然変異、遺伝子突然変異をおこす。
これらの結果は子孫に対して軽微な機能障害から奇型、遺伝死(流産)に到る多様な遺伝障害を与える。
遺伝障害は世代をこえてその影響を持続し、その治療は現段階では不可能である。
4.放射線によるガンと遺伝障害にとって、これ以下なら安全という量は存在しない。
どんな微量な放射線でも、その微量さに応じたある確率で、ガンや遺伝障害を発生させる。
5.いわゆる許容量は、これ以下なら安全という量ではない。
放射線を浴びることによって一個人が利益を受ける(例えば、X線による結核の診断)ことが明白なばあい、
その利益と放射線をあびる損失とのバランスで決められる量である。
6.自然界にも放射線は存在する。
天からの宇宙線と地上(およびそれを材料とした建物)からの放射線、
人体内のカリウム-40という物質からの放射線である。
これらも、ガンや遺伝障害の一因になっていることは間違いない。
これらは、人間が人間であるかぎり避けられないのであり、人工の放射線と区別して考えられなければならない。
7.自然の放射線に対しては数億年以上にわたって、 動物・人類はこの障害による淘汰を経てきたと考えられる。
したがって自然界の放射線の何パ-セントかを増加させてよいという考えは恐るべき無謀な考えである。
そのもたらす影響は全く未知であり、破滅的なことに立ち至る可能性もあるのだ。
8.原因からみれば、人工放射線は自然にも発生するガンや遺伝障害を確実に増加させる。
にもかかわらず人工放射線によって発生したガンや遺伝障害を自然放射線によって、
発生したそれとを結果から見て個別的に判断する方法は絶対にない。・・・・
「原発事故災害の巨大さ」
1. 100万キロワットの原子力発電所が1年間運転すれば、その中にはヒロシマ原爆約1000発分の死の灰が蓄積されている。
2.災害評価の一例。
1965年にアメリカの原子力委員会が行った計算によれば、約45,000人の死者、
ペンシルヴァニア州(北海道の1倍半)程度の規模にわたる汚染を結果する、という。
3. 4重・5重の安全装置をつけて、このような巨大災害になる確率を少なくすることが試みられてきた。
なるほど確率は小さく出来るかも知れないが、
確率をゼロにすることは絶対にできない。(死の灰1000発分が存在する以上)
4.事故確率の評価ほど怪しげなものはない。
巨大タンカ-の事故、原油貯蔵基地の事故、エア・バスの事故、宇宙衛生打上げの失敗など、
数千年に1回、100万回に1回などの事故が次々に起こっているのが現実である。
5.ことに原子力発電所の場合、
もっとも重大な事故につながると推定される冷却材喪失事故のときに有効に作動しなければならない
緊急炉心冷却系(ECCS)の有効性に決定的な疑問が投げられている。
6.省略
7.巨大な潜在的危険性にたいする唯一の科学的態度は、起こりうる最悪の事態を想定してそれを判断の基準に置く、ということである。
「原発と再処理工場からの放射性廃棄物」
1.環境放出
事故を考えなくても、平常運転時の原子力発電所は、気体や液体の放射性物質を、
「規制値」以下ということで「計画的に」環境に放出している。
また、原発運転にともない不可避的に必要な燃料再処理工場からは
その数十倍から数百倍の環境放出「認め」られている(再処理工場は1日で原発1年分を放出する)。以下省略
2.燃料再処理工場の廃棄物には、プルトニウムが含まれている。・・・・
現行基準でも職業人の最大許容負荷量は、100万分の1グラム(×0.6)と決められている。
一般人に対してはこの10分の1である。・・・・
東海再処理工場は、安全審査書類上でも、1年間に1グラムを海に放出することになっている。
3.省略
4.再処理工場は、化学的に不安定で発火し易い薬品を多量に使用する工場であるから、
普通の化学工場で起こる事故は、すべて容易に起こり得るし、その上、プルトニウム自体の臨界事故が可能である。
5、6.省略
「その他の問題」
1.輸送時の事故
公衆への被害という観点から、使用済燃料、廃棄物の船舶・車両による
輸送時の事故の問題は十分に考えておかなければならない。
アメリカで実際に使用済燃料の輸送に使われている鉄道用のキャスク(容器)では、
1度に3.2トンの仕様済燃料を運び、トラックでは0.5トンのそれを運ぶ。
これらの中にはそれぞれ37京ベクレル、5京9200兆ベクレルの放射能量の死の灰が存在している。
37京ベクレルは、広島原爆の死の灰に匹敵する。 以下省略
2.熱汚染
いわゆる温排水である。・・・・
原子力発電所は、核分裂で発生したエネルギ-の約3分の1を電力に変えるだけで、残りの約3分の2は、海へ棄ててしまっている。
100万キロワットの発電所は、
その2倍の200万キロワットに相当する熱を生みに棄てて海水の温度を上げてしまっている。
これは、直接に漁業を脅かすだけではなく、地球全体の熱汚染という立場からも無視できない問題になってきている。
●100万キロワット原子力発電所の諸デ-タ(水戸論文から若干手直しました)
熱出力 | 300万キロワット |
海へ棄てる熱 | 200万キロワット相当 |
使用燃料 | 100トン |
使用燃料中のウラン-235 | 3トン |
1年に消費するウラン-235 | 1トン |
1年にできる死の灰 | 1トン |
1年にできる死の灰の放射能の強さ | 停止直後 74,000京ベクレル |
| 停止24時間後 14,800京ベクレル |
そのうち放射性ヨウ素のみ | 5日後 370京ベクレル |
1年に生成するプルトニウム | 300キログラム |
広島、長崎との比較
広島原爆のウラン-235 100キログラム(推定)
広島原爆の死の灰 1キログラム(推定)
長崎原爆のプルトニウム-239 10キログラム(推定)
3.省略
4.激増する下請け労働者の放射線被爆
5.潜在的核武装
・・・・100万キロワットの原発が1年間稼動すれば、
その中には約300Kgのプルトニウムが作られ、これはナガサキ原爆30個分に相当する。・・・・
現在試運転に入っている東海村の再処理工場では、1年間に11トン以上のプルトニウムを精製する(この論文の時点)。
少なくとも200発の原爆に相当するのである。