薬が他の場所にも影響する具体例 2

次はピロリ菌除去に関することです。

 

「胃酸を止める薬」

 胃の働きは外部から(口から)摂取した食事を

 強烈に殺菌することと、消化分解する事です。

 その為に胃酸として塩酸と消化液が出ます。

 そうすると食事だけでなく

 自分自身の胃壁に対しても

 攻撃をする可能性があります。

 自分の胃の壁を守るために、

 胃は壁を絶えず新しくし、

 粘液を分泌して保護しています。

 そのバランスが崩れて胃酸が勝つと、

 胃潰瘍など胃のトラブルの原因となります。

 胃潰瘍の治療に昔は手術や胃壁の保護剤を使用しましたが、

 最近では胃酸の分泌を減らしたり

 止める事で胃壁の回復を待つことが

 出来るようになりました。

 またピロリ菌(ヘリコバクタ-ピロリ)が発見されて、

 その治療の一環として胃液を止めることが進んでいます。

 ピロリ菌は胃や十二指腸の潰瘍やガンの

 原因になるとされているので、

 退治(除菌)しようとするのです。

 胃酸は塩酸と同じで強烈な殺菌効果があり、

 菌や微生物は死にます。

 ところがピロリ菌はアルカリ成分を分泌し

 自分を守る幕を作るため胃液の中でも生きられるのです。

 ピロリ菌を退治する為に抗生物質を使用しますが、

 効果を上げるために、

 一旦胃酸分泌を止める必要があります。

 その為のPPIという薬が発達しました。

☆胃液が出る仕組み

 胃酸が出る仕組みの模式図です。

 プロトンポンプ

 食事を摂取して胃の中に溜まり、

 出口の幽門部に来ると自立神経の働きで、

 殺菌・消化を開始します。

 まず自律神経の働きでアセチルコリン、

 ヒスタミン2型、ガストリン等が分泌されます。

 上の図の右側に矢印で示されています。

 胃の壁ではアセチルコリンに対して「ムスカリン受容体」

 ヒスタミンに対して「ヒスタミンH2受容体」

 ガストリンに対して「ガストリン受容体」等の

 受容体が信号を受け取り、

 胃酸分泌信号を出します。

 胃酸分泌の量が緑の矢印の太さで違います。

 そして最終的にプロトンポンプという

 胃酸ポンプが作動して胃酸が出るのです。

 そのため胃潰瘍の治療やピロリ菌を

 退治するためには、

 胃酸を出ないようにする必要があるので、

 各受容体やプロトンポンプそのものを

 作動させないようにします。

 まず受容体を働かせない薬です。

 ブロッカ-とか拮抗剤といわれます。

 その仕組みです。

 ◎ヒスタミンH2受容体

  ヒスタミンはアレルギ-に関係する1型と

  胃酸分泌の2型があります。

  胃壁にあるヒスタミン2型の受容体を

  ブロックして胃酸を出ないようにする薬です。

  H2ブロッカ-と言います。

  薬ではガスタ-10などが有名です。

 ◎ガストリン受容体

  食事が胃に入ったときに胃の幽門部から

  ガストリンが分泌されます。

  これはホルモンです。

  胃壁の受容体でキャッチすると胃酸が出ます。

  胃酸を止めるには抗ガストリン剤を使います。

  薬は色々あります。

 ◎ムスカリン受容体

  食事の信号が入ると交感神経で

  神経伝達物質アセチルコリンが出てます。

  胃壁ではそのアセチルコリンを

  ムスカリン受容体でキャッチして

  胃酸を分泌します。

  それを押さえるには

  抗コリン剤(M1ブロッカ-)を使います。

  薬はアトロピン系薬剤です。

これ等の薬を別々に服用しても

完全には胃酸を止めることは困難です。

そこでこれらの薬の信号を受け取って

最終的に働く胃酸ポンプを

直接止める薬が開発されました。

PPIと言います。

胃酸を分泌するポンプをプロトンポンプと言い、

プロトン(水素イオン)の働きで胃酸を出しています。

そのポンプを直接止める薬が

PPI(プロトンポンプ阻害剤Proton pump inhibitor)です。

良く使われる薬ではバリエットやタケプロンが有名です。

◎問題点

 ☆受容体やプロトンポンプが存在する場所と影響

  これらの働きの中で、ヒスタミンH2受容体、

  ムスカリン受容体、プロトンポンプなどは

  胃酸を分泌する胃壁にだけ

  存在するわけではありません。

  全身に存在するので、

  胃酸を止める作用が目的であっても

  全身に影響を及ぼします。

 ☆ヒスタミンH2受容体

  平滑筋、血球幹細胞、中枢神経系、

  心筋・・・などにも存在する

 ☆ムスカリン受容体

  腸管の平滑筋運動促進、唾液分泌、

  心機能抑制、排尿促進・・・・

  等に関するところにも存在します。

 ☆プロトンポンプ

  プロトンポンプにも数種類の型があり、

  全身に存在します。

 ☆胃酸を止めることの弊害

  色々な薬を使って胃酸の分泌を押さえることは

  治療上必要な場合もあります。

  しかし胃酸は強烈な殺菌作用があるので、

  私たちは安心して食事が出来るのです。

  胃酸ではピロリ菌以外の微生物などの

  細菌は死滅します。

  強烈な殺菌作用がある胃酸の分泌

  薬で止めると当然ながら殺菌が出来なくなります。

  そうすると感染症を起こす危険性が増えます

  抵抗力(免疫力)が低下した高齢者などには

  注意したほうが良いと思います。

  長期にわたって服用することにも

  注意したほうが良いかもしれません    

 ☆ピロリ菌(ヘリコバクタ-ピロリ)の除去と問題点   

  ピロリ菌の検査が楽に出来るようになったため

  殺菌(除菌)は流行っています。

  将来のガンや潰瘍を防ぐことが目的です。

  殺菌をする為に抗生物質が使われますが、

  胃酸のある酸性の環境では効力が落ちるので、

  まず胃酸の分泌をとめます。

  そのために強力なPPI(プロトンポンプ阻害剤)を使います。

  その上で2種類の抗生物質を1週間服用します。

  それが成功しなければさらに2回目の除菌を行います。

  問題は抗生物質で除菌できるのは

  ピロリ菌だけではないということです。

  全身の細菌が死んでしまいます

  多くの菌は身体に悪いわけではなく、

  身体を守るために存在しているのです。

  しかし除菌すると善玉の菌まで死んでしまうのです。

  そして菌同士のバランスがくずれて、

  感染性下痢など新規の感染を起しやすくなります。

 ☆さらに問題は、抗生物質を使っても

  死なない菌が残った場合です。

  抵抗力が落ち、守る菌もなく、

  抗生物質耐性を持った

  耐性菌だけが繁殖してしまいます。

  耐性菌による発病があっても原因が耐性菌ですから、

  抗生物質が効かずに治療が困難になります。

  ピロリ菌除去の結果、ガンや潰瘍は若干減るのですが、

  総死亡数がかえって増える

  傾向があるという研究もあります。

 ☆PPIで各臓器の水素イオン濃度が調整できなくなる。

  プロトンポンプには色々な種類があり、

  しかも胃にあるだけではありません。

  最近では肺の細胞にもあり、

  免疫を制御していることが分かりました。

  その為PPIで肺のプロトンポンポンプを止めると、

  肺炎になりやすいことが指摘されています。

  高齢者は特に要注意でしょう。

  さらに骨折や尿路感染の危険性が

  増えることも指摘されています。

  健康なピロリ菌保菌者でガンや

  潰瘍のない人は無理に除菌を

  しないほうが良いかもしれません。