終戦時・日本の毒ガス隠蔽工作
敗戦後、連合軍による追及をのがれる為、
旧陸軍では隠蔽する為の文書を作成しています。
陸軍省は1945年12月1日に第一復員省に改組されました。
その時の幹部は
大臣 幣原喜重郎(総理大臣兼務)
次官 上月良夫元中将
総務局長 吉積正雄元中将
総務課長 荒尾興功元大佐
1945年12月23日、
第一復員省総務課から毒ガス戦を
隠蔽する指令文書が出されました。
季刊戦争責任研究 第88号
松野誠也論文から転用します。
漢字、カナ文字等は分かりやすく直しました。
●毒瓦斯に関する思想統一に関する件
決済案(12月23日決済済)
20・12・21
総務課
毒瓦斯に関する事項に関しては
終戦直後より思想の統一を図り、
本趣旨に基づき連合軍側の要求に応じ
資料提出、説明等を実施し、
中央の関係事項は殆ど終了せるが如きも、
現地部隊長に於いて陸軍中央との関係もあり、
その答弁に苦慮せられあるをもって、
中央、現地を通じその思想特に
これが用法に関する点を統一し明確なる態度を持って
事に臨み得るため、
左記の如く所要に応じ関係者に連絡したく
乞決済
注:外地では答弁に困る場合が多いので、
口裏を合わせるためにこの文書を作った。
左記
第一方針
実情の通り解答するを本則とし、努めて関係範囲を極限し、
国際信義の確保に支障なからしむ
注:国際信義を守る為に巧く答弁しろ、ということです。
第二要領
1.研究は第一次世界大戦以降実施せるも、
研究進捗に伴い、毒瓦斯が
戦争の勝敗を決し得べき決定的なるものに非ず、
又我が国の国力として之が大量整備は極めて困難なるをもって
その重点順位は極めて低位にあり、
近年は主として対瓦斯防御を重点的に研究を進めあり
2.整備は一時これを行いたるも、
支那事変頃以来これが整備を極限し製造設備、技術維持に
緊要なる最小限度に止め、
特に昭和19年度以降、火薬その他直接戦闘に
使用する資材の整備を確保する為、
これが整備を中止することに決定せり
3.毒瓦斯および毒瓦斯弾は
支那事変当初支那に対し一部補給したることあり、
大東亜戦争においては
中央よりこれ等の補給を行いたることなく、
部隊中一部部隊保有の物を携行したるや否やに
関しては中央としては承知しあらず、
又対戦車自衛の為大東亜戦争当初南方軍に対し
一部「チビ」を補給したることあり、
ただし何れの場合においても
これの使用は大本営の命令によるこことせり
4.毒瓦斯の使用に関しては
大本営はこれを命令又は認可したることなし、
但し支那事変の初期支那においては
一般住民に危害を及ぼすことなき場合、
自衛のため止むを得ざれば
局地的に一部の瓦斯を使用することは
参謀総長において認可したることあり、
特に大東亜戦争戦争開始後においては
誤りて使用することをおそれ
総て攻撃用瓦斯資材はこれを各軍の
後方要地に後退集結を命じその分散を禁じたり
5.現地において確実なる証拠を残しあるものは
概ね次の趣旨にて解答す
①「きい」「ちゃ」は計画的に使用したることなし、
但し局地においては一部使用したることあるやも知れざるも
中央においては未だ何等の報告に接しあらず、
使用したる部隊ある時は関係せる範囲を
最小ならしむる如く答弁に注意す
注:実際には1937年7月臨参命第65号、
1938年4月からは、大陸指第110号、120号、
225号・・・と次々と中央からの命令が出ています。
②「あか」「みどり」等は
厳密なる意味における瓦斯に非ず、
一部発炎用又は催涙用として使用したる事あり
③ 「ちび」は対戦車自衛用として緊急なる場合使用したることあるべし
④「きい」「茶」剤(弾)の有効期限は左の如く、
既に支那に保有しあるものも大部分は無効になれる筈なり、
これ等の有効期限判定の為
一部試験的に使用したることあるやも知れず
「きい」約5年
「ちゃ」約3年
⑤習志野学校は瓦斯防護に関する研究教育を
実施し、用法に関する研究は実施しあらず、
但し防御の見地より真毒を保有し、
若しくは使用したることあり
6.現在までに中央において連合軍側に提出しある
資料別冊の如し・・・・・(その概要左の如し)
◎左のごとき事項は総てこれをそのまま開示しあり
1.兵本(陸軍兵器行政本部)、航本(陸軍航空本部)、
習校(陸軍習志野学校)の編成、
終戦時の氏名
2.瓦斯製造、研究、補給、教育の系統
3.製造工場の名称、位置、能力
4.既製造量および中央保有量
5.各部隊には攻撃用資材は保有しあらず
◎習校は防護に関してのみ教育す
◎日本軍が瓦斯準備を重視しあらず、
攻撃用に関する意図なかりしことに関しては
概ね了承しあるが如し
◎「あか」「みどり」が毒瓦斯に非ずとなす
件に就いては余り反対しあらざる如く観察せらる